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製材品と比べ合板の価格はなだらかに上下動、時間軸が違う
井上社長と遠藤理事長が直接向かい合って対談するのは、2015年の1月以来となる。当時、井上社長は合板業界の若きリーダーとして、原料の国産材シフトや新製品の開発、新規需要の獲得などに率先して取り組んでいた*1*2。その姿勢は今も変わらないが、この間に経営者としての経験値を高め、業界内での存在感が一段と増してきている。
2人は、前回と同じく東京都文京区のセイホク本社7階にある社長室で話を始めた。
この約10年間で、国産材業界は大きく揺れ動いた。とくに、ウッドショックによって、業界のいい面と悪い面があぶり出された感がある。住宅需要の減少も相俟って、再編と淘汰の時代に入ったとも言える。合板業界の現状はどうか。
製材品などと同様に、合板の価格もウッドショック後は低迷が続いている。ただ、ウッドショック時における価格の上下動には違いがあった。

どのような違いがあったのか。
合板価格の上昇は、製材品よりも1年くらい遅れた。製材品の価格は急激に上がって急激に下落したが、合板の価格は2か月に1回くらいのペースで徐々に上がっていき、下落過程も製材品と比べてなだらかに推移した。時間軸が製材業界とはちょっとずれていた。
原木価格の上昇時には生産効率のアップとコスト削減に注力
なぜ、そのような時間差が生まれたのか。製材品の場合は、思惑買いなどもあって価格がつり上がっていった側面がある。
合板の場合は、メーカーと流通業者、ユーザーとの間で、情報共有や意見交換を重ねながら価格が決まっていくのが実情だ。だから、一気にドーンと値上げをするようなことはなく、直近の需給バランスに合わせて比較的ゆっくりと価格が形成されていく傾向がある。
製材業界に比べて合板業界は集約化が進んでおり、個々の工場の生産規模も大きい。それがウッドショックへの対応で違いを生んだのではないか。
製材品よりも合板の方が流通の“見える化”が進んでいるとは言えるだろう。合板を生産する大前提として、顧客のニーズをしっかりと掴む必要がある。メーカーの都合で量産して価格を上げたり下げたりするようなことはしない。
ウッドショックのときには、製材品ほどではないが、合板用の原木(丸太)、いわゆるB材の値段も上がった。これにはどう対応したのか。
原木価格の上昇を、そのまま合板価格に転嫁するのは難しい。そこで、合板メーカーとして生産効率を極力高めるようにし、歩留まり率を高め、無駄をなくすコスト削減に取り組み、フル生産をしてきた。だが、それでも追いつかないところがあり、値上げをさせていただくというスタンスでやってきた。これも価格変動をなだらかにした要因だろう。
原木調達の変遷により品目見直し、構造用合板が“主役”に
ウッドショックの前後を大きくとらえると、製材品も合板も価格水準は元に戻ったといえる。ただし、住宅などの需要は低迷しており、合板工場は減産を続けている。これから需要がさらに冷え込めば、値下げ圧力がかかることも考えられる。
今後を展望するにあたっては、合板業界の歩みを踏まえた上で、現在のマーケットを冷静に分析する必要があるだろう。
まず合板に使用する主要原木に関しては、フィリピン、マレーシア、インドネシアなどの南洋材(ラワン材)から米国、カナダのダグラスファー、そしてニュージーランド、オーストラリア、チリなどのラジアータパイン、さらにロシアの北洋材(北洋カラマツ)に移り、今は国産材が主役になってきている。
使用原木の変遷に伴って、合板の“主役”も変わってきた。かつては、南洋材を使った型枠用合板がメインだったが、原木が針葉樹に移ったときに、住宅に使われる構造用合板にシフトして供給するようになった。その中でスギを使った構造用合板(商品名「ネダノン」)がヒットして、合板メーカーが国産材を積極的に使用するようになった。
その経緯は、前回の対談の中でもとくに印象に残っている。合板業界だけでなく、日本の林業・木材産業にとっても画期となる出来事だった。
当初は、ロシアから輸入する北洋材だけで12㎜厚と24㎜厚の構造用合板をつくり、ハウスメーカーなどに床材として供給し一定の評価を得ていた。北洋材は強度があるので構造用合板に向いている。ただ、24㎜厚になると非常に重たくなる。
とりわけ、24㎜厚の構造用合板を2階の床材に用いる場合、現場で施工する大工さん達からは、「重くて腰が痛くなる」と言われていた。そこで軽いスギを使った構造用合板を開発したところ、「軽くて扱いやすい」と評判になり、爆発的に売れるようになった。

国内市場では“住み分け”するも、国際情勢への対応が必須
構造用合板の開発時には、北洋材とスギを併用していたのか。
まだ北洋材の原木が入ってきていたので、7プライや9プライで構成する構造用合板のフェイス(表面)とバック(裏面)に北洋材を用い、中身をスギにした。こうすると、北洋材100%の構造用合板と同じ強度でありながら、重さは3~4割軽くなった。
構造用合板がヒットしたときに、海外でつくって日本に輸入するという動きは出なかったのか。
マレーシアやインドネシアでも構造用合板をつくってはいるが量が少なく、型枠用合板やフローリングの台板がメインになっている。一口に合板と言っても、国内市場においては、構造用合板ならメイド・イン・ジャパン、型枠用合板やフローリングの台板はマレーシアやインドネシアから調達するという“住み分け”ができている。
そうした構図の中で、国内の住宅市場が縮小すると、構造用合板を主力にしている合板メーカーへの影響がより大きくなるのではないか。
国内事情だけでなく国際情勢の変化にも対応していかなければならない。例えば、ロシアのウクライナ侵攻に伴う経済制裁によって単板は禁輸品目になったままだ。これまでとは全く違う状況で事業戦略を構築しなければならない。(中編につづく)
(2024年12月3日取材)
(トップ画像=製材品と合板の価格推移、全国平均)

遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。