片品村との県境を超えた森林整備が進展、5か年目標達成へ
埼玉県の中東部に位置する上尾市の名を全国に知らしめたのは、1975年夏の甲子園大会だった。県立上尾高校がベスト4に進出する快進撃をみせ、準々決勝では原辰徳選手(前巨人軍監督)らを擁する優勝候補筆頭の東海大相模(神奈川県代表)を逆転で撃破。日本中の野球ファンが目を見張った。
あの熱狂から半世紀が過ぎた同市を訪ねると、市役所の玄関脇には女子バレーボールの強豪・埼玉上尾メディックスの大型ボードが設置され、選手達がにこやかに出迎えてくれる。今秋には実業団のトップランナーも参加する上尾シティマラソンや1万人規模の市民体育祭などが相次いで開催され、1976年に表明した「スポーツ健康都市宣言」(2023年に「健康」の文言を追加)の路線を邁進している。
そんな同市に、2023年度は約2,400万円の森林環境譲与税が交付された。同市の総面積は4,551ha。このうち民有林面積は112ha で2%を占めるのみ。森林計画対象面積は約77haしかなく、そのほとんどはクヌギ・コナラ等を中心とした広葉樹二次林となっている。
これでは、毎年度配分される譲与税を有効活用しようにも手詰まりになりそうだが、同市は新たな道筋をつけている。それは、群馬県片品村との県境を超えた連携による森林整備の推進だ。
上尾市と片品村は、2002年に「災害相互応援協定」を結んでいる。これを踏まえ、2022年8月に「森林整備の実施に関する協定」を締結*1。上尾市の譲与税を使って片品村内の森林を整備し、カーボン・オフセットによって両自治体の脱炭素化につなげることを申し合わせた。この取り組みが本格化してきている。
5.64haの「あげおの森」で脱炭素化、使途拡大も幅広に検討
上尾市と協定を結んだ片品村の森林面積は約3万6,000haで林野率は92%と高く、譲与税を使って村有林と私有林の整備をテコ入れする方針を打ち出している。その一環として、村有林の一部を協定に基づく「あげおの森」に設定した。
「あげおの森」の面積は5.64ha。60年生前後のカラマツが生育しており、当面は2027年度までの5か年で間伐などを進める計画だ。必要な経費等は上尾市の譲与税で賄い、地元の森林組合などが作業を行うことにしている。
その第1弾として、昨年度(2023年度)は8月から10月にかけて「あげおの森」で2.1haの間伐を行い、二酸化炭素(CO2)換算で6tの吸収量が群馬県から認められた。上尾市は、6t分の排出削減(オフセット)に相当することを広報活動などでアピールしている。
続いて、今年度(2024年度)は9~10月に1.6haの間伐を行う予定。上尾市は、森林整備費として、譲与税を原資に毎年度400万円程度の資金支援をする。担当の環境政策課ゼロカーボン推進室は、「2年間で計3.7haの森林整備を行うメドがつき、目標(5.64ha)のクリアまで残り半分を切った」と手応えを話す。
では、目標達成後はどうするのかと問うと、「今の取り組みを継続していくか、市内も含めて植樹なども行っていくか、譲与税を有効活用できる使途を幅広く検討している」とのこと。人口約23万人の上尾市は木材利用拡大のポテンシャルも大きく、今後の動向が注目される。
(2024年9月11日取材)
(トップ画像=上尾市は2021年7月に「ゼロカーボンシティ宣言」を表明した)
『林政ニュース』編集部
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