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震災や戦後の復興を支えてきた工場などを全面リニューアル
木場駅から徒歩5分ほどの東京木工場では、昨年(2022年)の3月から本格的な解体工事、9月から本格的な新築工事が同時並行で進められており、慌ただしくも活気に満ちた空気が流れている。遠藤理事長は、まず工場長の和田昌樹氏に問いかけた。
約140年前の明治時代に創業した工場が現在も“現役”で稼働していることに驚かされるが、それを全面的にリニューアルするとは大きな決断だったのではないか。
東京木工場は、関東大震災や第2次世界大戦後の復旧・復興事業などで重要な役割を果たしてきた。1945(昭和20)年に戦火で焼失したが、直ちに復旧し、戦後復興とともに工場設備を順次拡充し、現在は4つの工場棟をはじめ倉庫、事務所棟など計11の施設群で操業を続けている。
その施設群が古くなったということか。
稼働中の工場棟や倉庫などは鉄骨造でつくられており、耐震改修や部分改修によって老朽化に対応してきたが、それだけではカバーできない部分が出てきた。また、増築を繰り返してきたので、動線が整理されておらず、冷暖房が完備されていないところがあるなど、改善すべき点が多かったこともあり、工場の全面建て替えを会社として決定した。
建て替え後は木造の工場になるのか。
鉄骨造と木造を組み合わせた木鋼ハイブリッド構造の建物を2棟つくる。1棟は小中規模、もう1棟は大規模の建築物で木材を活かすモデルになるような建物を計画している。
鉄骨造+木造のハイブリッド構造で来客棟と工場棟を新設
新設する2棟の建物は、どのようなものになるのか。
1棟は地上2階建ての来客棟で延床面積は約1,291m2、もう1棟は地上3階建ての工場棟で延床面積は約3,555m2になる。
来客棟は、1階の中央部を資料館にし、東京木工場が手がけてきた代表的な建築の内装の現寸模型や、伝統工具、図面類などを展示する。また、1階の北側に常設の木育室を設け、見学希望者や地域住民などを対象に木工教室を開催する。2階には事務室と会議室を配置することにしている。
工場棟には、ものづくりの機能を集約し、1階は新たな木造(木質)建築に対応する技術開発ゾーンとし、2階と3階は文化・技術の継承を図る伝統技術ゾーンとする。いずれのゾーンにも見学エリアを設け、来場者が木材加工に関わる最新技術と伝統技術の両方を間近で体感できるようにする。
また、敷地内に木育の一環として森のギャラリーと体験の森を整備し、都心でも森林の循環利用などを学べるようにしたいと考えている。
この東京木工場では、年間に約1,500人の見学者を迎え入れているが、リニューアル後には見学者を約3,000人に倍増させることを目指している。
建設工事の進捗状況はどうなっているのか。
来客棟は、この8月に仮完成する。工場棟は、来年(2024年)の12月に完成し、グランドオープンは再来年(2025年)の10月を予定している。
匠の技と最新機械が共存、「伝統」と「革新」をともに追求
東京木工場の全面建て替えには、様々な目的があることがわかってきた。リニューアルプロジェクト全体のコンセプトなども教えて欲しい。
全面建て替えによって、「木の文化・技術・魅力の発信拠点」に生まれ変わることを目標にしている。その具体的な内容については、設計本部の山田徹グループ長から説明しよう。
リニューアルプロジェクトを進めるにあたって、社内で共有しているコンセプトは、「伝統」、「革新」、「SV(清水バリュー)推進」の3つだ。
「伝統」については、約140年にわたって培ってきた伝統建築に関する「匠」の知見や技術などをしっかりと継承していく。
それとともに、「革新」として、CLTの利用や耐火、高層化、大空間化など木質構法の多様化に対応するため、木の技術開発センターになることを目指す。ここがリニューアルプロジェクトの大きな目玉になる。
「伝統」と「革新」をともに追求するわけか。
工場棟の3階は「伝統」を伝える作業場ゾーンとして、各種の全国技能大会で金メダルを取ったような社員が過去から継承してきた木工技術を駆使して高度な加工を行う場とする、工場棟の1階には、内装モックアップ(原寸模型)を確認できるゾーンも設けることにしている。
一方で、同じく工場棟の1階に、「革新」を実現するエリアをつくり、多軸ロボットやNC加工機など最新の工作機械を設置して、技術開発を推進する場にすることを計画している。
対外的な発信力を高め「SV(清水バリュー)推進」目指す
コンセプトの3つめに掲げている「SV(清水バリュー)推進」とは、どういうことなのか。
「伝統」と「革新」に取り組むことを通じて、社会に対する発信力を高めていきたいと考えている。弊社では、これまでも木工教室を開催するなど木育活動を行ってきたが、来客棟に新設する木育室や敷地内に整備する体験の森などを活用して、一般の人々とのつながりをもっと広げていきたい。
この地は、江戸時代から木材の商いを中心にして発展してきた歴史がある。かつては、貯木場などがあって、日常的に木材と親しめる環境にあったが、そうした風景が失われてきてしまった。そこで、新設する施設は木材を表に出した外観にして、木場の原風景を現代に蘇らせることにしている。
そうした取り組みを進める際に、重視していることは何か。
伝統的な技術に最新のテクノロジーをいかに融合させるかだ。このため、リニューアルプロジェクトでは、従来にない革新的な木質構造などにチャレンジしている。(後編につづく)
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。