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再造林と育林をセットにして立木購入、コンテナ苗も増産へ
これからの木材市場は、「もっと川上に寄り添っていかなければいけない」という伊東社長の言葉は重い。林前社長も同様の問題意識を持ち、全国に先駆けて「森林信託」を導入するなど、川上へのアプローチを強めていた。
弊社を含めた川中・川下業界の“飯の種”は、山から出していただく原木だ。原木を確保し続けるためには、林業経営が安定しなければならない。この当たり前の前提が揺らいでいる。だから、木材市場として川上への支援策を講じる必要がある。その1つが「森林信託」であるし、現在は5年間の森林整備サポートをスタンダードにしている。
どのようなサポートを行っているのか。
立木を購入する際に、森林所有者と協定を結び、弊社が伐採から植林、下草刈りなどに関する作業を5年間引き受けている。そして5年後に、健全に育てた森林を所有者へお返ししている。
再造林と育林をセットにして立木を買っているのか。森林整備に要する費用などはどうしているのか。
購入した立木をできるだけ高く販売して、必要経費を捻出するようにしている。このサポートは、2008年から行っており、16年目に入った。再造林を保証することで、森林所有者に安心感を持ってもらえるし、弊社としても事業量をきちんと計画できる。今後も50年、100年と続けていきたい。
そこまで長いスパンで考えているのか。
これからも確実に再造林を行っていくためには、苗木の確保も欠かせない。そこで5年ほど前から本社でコンテナ苗を栽培している。佐賀県産の優良品種であるサガンスギの苗木を育てている。まだ年間1万7,000本くらいの生産量だが、これから3万本、5万本、10万本へと増やしていきたい。
時代に先駆けてスギ2×4材の量産に挑戦し、苦労を重ねる
森林整備や苗木づくりにそこまで本腰を入れているのならば、伊万里木材市場の事業は、すでに「木材市場」の範疇を超えたともいえる。そこで思い起こすのは、林前社長が描いていた「一帯一路」戦略だ。古代の中国とヨーロッパを結んだ交易路をモデルに、九州全域をカバーする広大な経済圏の確立を構想していた(図参照)。
とくに国産材関係者が驚かされたのは、鹿児島県霧島市に進出して、スギ2×4(ツーバイフォー)材を生産する(株)さつまファインウッドを立ち上げたことだ。私は、工場が稼働する前の2014年10月*1と、稼働を始めた翌15年8月に現地を訪れ、林前社長のコンセプトなどを聞いた(第496・516号参照)。当時はスギ2×4材といってもマーケットでの認知度は低く、量産型工場を動かすのは極めてチャレンジングなプロジェクトだった。
確かに、スギ2×4材の生産を軌道に乗せるのは簡単ではなかった。カナダ産SPFの2×4材が圧倒的なシェアを持っているため、スギ2×4材の価格もカナダ産SPFの価格を参考にされた。ユーザーにまず使っていただくためには、採算面である程度目をつぶるしかなかった。さつまファインウッドの計画段階における原木価格と、工場稼働開始時の原木価格を比較すると、以前より高い水準となっていたことも大きく影響した。原木価格を取り巻く環境が変わったことで、2×4材用のラミナを集めることにも苦労することとなり、複数の要因が重なって厳しい採算状況でのスタートとなった。
ウッドショックを経て「いいものをつくる」に磨きをかける
さつまファインウッドが動き出してから10年余が経過した。現状はどうなっているのか。
厳しい経営が続いていた中で、転機となったのがウッドショックだった。外国から木材製品が入って来なくなると言われ、スギ2×4材の注目度が一気に高まった。ピークだった2021年10月には、適正な販売価格にすることができ、採算性が大きく改善した。神風が吹いたようなものだった。
ただ、そういう中でも林前社長は、「とにかくいいものをつくれ」とこだわっていた。この方針は、ウッドショックの“熱”が冷めた今でも変わっていないし、大きな意味をもってきている。
量産型の工場でありながら、いたずらに量を追わないのは、目先の利益にとらわれないということか。
現在、スギ2×4材の生産・販売量は、月2,000m3くらいで推移している。工場の能力からすれば月3,000m3まで引き上げることは可能だが、「いいものをつくる」という基本を守って、品質と生産性を高めている。ユーザーからは、「さつまファインウッドの製品はちょっと高い」と言われることもあるが、「でも欠品率は低いし使いやすい」と評価していただいている。
この約10年間で、国産の2×4材を供給する工場が増え、マーケットを巡る様相はかなり変わってきた。外材対国産材という単純な構図ではなくなり、国内メーカーも含めて競争相手が増えてきた。一方で、足元では資材費や燃料費などが高騰している。その中で、山元還元を増やせるような生産体制を構築していくためには、弊社と関連会社の力だけでは足りない。同業他社との連携や協業をもっと広げ、深めていかなければならない。
同業他社との連携・協業を広げ「一帯一路」戦略を推進する
今の発言は、林前社長が示した「一帯一路」戦略と相通ずるものがある。九州には、伊万里木材市場にとってはライバルといえる原木市場などが多数あるが、それらとも連携・協業するのか。
ライバルであるのは間違いないが、同業他社と一緒に手を取り合っていかないと、真の意味での国産材時代はやって来ない。
弊社は、福岡、大分、鹿児島などに営業所があり、沖縄を除いた九州の各県産材を取り扱っている。大抵の注文には対応できるが、国産材の出口(需要先)が広がり、地域指定や認証などの要件が増えている中では、弊社だけで安定供給を実現しようとしても無理がある。
年間約60万m3を取り扱っていても、安定供給は難しいのか。
そうだ。例えば、熊本県には弊社の営業所がないので、熊本県産材の注文をいただいたら、地元の木材市場などに声をかけて取り組んでいく方が効率的だ。弊社だけで全部やろうとするのではなく、各地の物件に最寄りの同業他社が対応し、近くの山を活かせるようになれば、輸送コストなども削減できる。
同業他社といっても、仕事のやり方には違いがあるので、現場では摩擦も生じるのではないか。
もうステージが変わってきている。ウッドショックを経て、1社だけでは生き残れないと、みんなが考え始めている。九州にとどまらず、全国、そして世界を視野に入れて、国産材の供給力を高めていかなければならない。
林前社長が「一帯一路」戦略に込めた思いは、これだったはずだ。山に寄り添いながら、この夢の実現に挑んでいきたい。
(2024年7月9日取材)
(トップ画像=操業を始めた頃のさつまファインウッド(遠望))
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。