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金融関係中央7団体などに林業・木材産業の可能性を伝える
銀行などの金融機関が林業・木材産業への関心を高めていることは追い風であり、朗報と言っていいだろう。これを融資実績の拡大など具体的な成果につなげるためにはどうすればいいか。
私共を含めた関係者に求められているのは、林業・木材産業を正しく営んでいけば環境・気候問題に貢献できるし、今後の成長も期待できる産業であることを積極的に、かつ説得力を持ってアピールしていくことだ。
銀行などの金融機関も、そのような産業を支援しているかどうかで、社会的な評価が変わる時代になっている。金融機関にとって、林業・木材産業を支援することを通じてカーボンニュートラルにこれだけ貢献できていると明確に示せることは大きい。
そこで私共は、昨年(2022年)の夏頃から、全国地方銀行協会や全国第二地方銀行協会、全国信用協同組合連合会などの中央7団体に対して、林業・木材産業の社会的な役割や重要性を説明し続けている。金融関係の専門誌でも林業・木材産業の現状を紹介してもらい、個別の勉強会も重ねるなど、対外的な発信に積極的に取り組んでいる。
中央7団体などの反応はどうなのか。
非常に好評だ。国や地方公共団体が林業・木材産業に対してしっかりとした支援体制をとっており、私共が信用保証業務によってバックアップしていることも高く評価されている。
銀行ビジネスは厳しく競争も熾烈、健全経営が融資の大前提
そのような評価ならば、銀行などに融資を申し込んでもスムーズに認められるのではないか。
ただ、留意しなければいけないことがある。それは、金融機関もビジネスとして成り立っていかなければならず、今は非常に厳しい状況に置かれているということだ。例えば、銀行の預金残高は長期的に増えてきており、総額で900兆円くらいになっているが、これだけの預金を十分に活用できていない。
活用できていないとは、集めた預金を投融資に回せていないということか。
そうだ。2000年くらいまでは、預金をほぼ100%貸し出しに回して、利益を確保できていた。ところが現在は、約900兆円ある預金のうち6割弱しか貸し出せていない。金融業界で預貸率の低下と呼ばれる問題が解消されていない。
なぜ、そのような状況になっているのか。
1つの要因として、銀行にとって有望な貸し出し先がなかなか見つからないことがある。また、ずっと低金利が続いているので、たとえ貸し出しても利幅が薄い。このような中で、とくに地域の銀行になればなるほど、生き残りをかけた熾烈な競争を展開しているのが現状だ。
金融機関の本業である貸し出しビジネスで十分に稼げなくなっているわけか。
そこで貸し出しビジネス以外にも、コンサルティングや人材派遣など新たなサービスを展開し始めているが、そのための追加的なマンパワーを確保できているところばかりではない。投融資に携わる人員が従来よりも手薄になってきている銀行などもある。
このような状況の中で、林業・木材産業が融資を受けるためには、環境に貢献することと同時に、しっかりとした経営を続けて収益を上げ、金利をきちんと払える産業であることを理解してもらわなければならない。中長期の事業計画や資金計画を立てて、経営の持続性と償還の確実性を説明していくことが従来にも増して重要になっている。
「将来性評価」で起業などを支援、財務諸表以外で与信判断
林業・木材産業への追い風を活かすためには、個々の事業者がさらに経営体質の強化を図っていくことが不可欠ということになる。この面で、信用基金は、どのような“下支え”ができるのか。
私共が提供している保証メニューでは、制度資金や一般資金、災害復旧等支援のほか、事業承継、複合経営化、創業等支援なども用意している。とくに創業等支援は、林業・木材産業の裾野を広げていくために、昨年10月に「将来性評価」と称して導入した新たな仕組みだ。
「将来性評価」とは、どういうものか。
新たに林業・木材産業で起業しようとする事業者を対象とする「新規創業」と、他産業から林業・木材産業に参入する事業者向けの「新分野進出」の2つのタイプがある。
いずれも財務諸表がないか、あったとしても林業・木材産業に関するものではない事業者を対象としており、財務諸表以外の情報を重視して与信判断を行うことにしている。
「将来性評価」で与信判断の材料とするのは何か。
事業の継続性、償還の確実性に関する審査を行った上で、事業者の経営理念、経験、技術力、地域でのネットワーク、事業計画の妥当性などを評価のポイントにしている。
これまでに、「新規創業」では、森林組合の職員や公務員から独立した個人事業主や、小売業、機械メーカーから転じて起業した事業者、「新分野進出」では、飲食業や運送業から参入した事業者などに保証を提供してきた。現時点でこれら事業者の経営は順調に推移しており、「将来性評価」に関する問い合わせ件数も増えてきている。
どのような形態であっても持続的な経営をサポートし続ける
林業・木材産業でも、いわゆるM&A(企業の合併・吸収)などの動きが増えてきた。業界地図が塗り替わるような過渡期の中で、信用基金はどう対応していく方針か。
確かに、経営体力のある事業者が、後継者不足などで悩んでいる事業者を傘下に収めて事業を拡大しようとするケースが目立ってきた。一方で、地域に根差したビジネスを続けようと努力している事業者もいるし、新規参入の流れもある。どのような形態であろうとも、林業・木材産業の事業者が持続的な経営をしていくためには資金が必要であり、そこに保証が必要であれば私共がしっかりと“下支え”をさせていただく。
林業・木材産業の成長を後押しする仕組みとしては、まず補助金が思い浮かぶが、融資の活用も“車の両輪”として推進することの重要性が再認識できた。
国もその点は重視していて、先ほどの「将来性評価」をはじめ、災害復旧等支援や事業承継支援など政策的に重要と認めた保証メニューについては、保証料を実質的に免除とし、保証料相当額が私共に補填されるようになっている。
まさに国を挙げて林業・木材産業を成長産業にしていこうとしている中で、私共は融資機関に近い立場にいるという“地の利”を活かし、事業者の円滑な資金調達をサポートし続けていきたい。
(2023年9月5日取材)
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。