瀬崎林業*1*2は、中国・台湾向けに国産材の原木(丸太)を輸出しているとともに、内航船を使って九州から首都圏へ国産材製品を輸送している。これらの事業は大手商社も取り組んでいるが、先鞭をつけたのは同社であり、木材専門商社の強みと海路による輸送ノウハウを組み合わせた独自の物流体制を構築している。
九州~関東の輸送コストにも影響、大量に運べば単価が下がる
瀬崎林業の遠野嘉之社長は、「もちろん市況にもよるが」と前置きした上で、「これからも首都圏の需要に応えるためには九州からの木材製品供給が必要だ」と話す。では、輸送費をどうみるかと尋ねると、「九州から関東までのm3当たり輸送コストはトラックが約9,000円であるのに対し内航船は大量輸送によりそれ以下の単価で運べる」との答えが返ってきた。また、「来年度(2024年度)以降、陸路を使った輸送費の高騰は避けられないので、海路の優位性がさらに高まるのではないか」との見通しを示した。
関東で木材製品を取り扱っている港は、東京港、川崎港、横浜港の3か所。中でも東京港の15号埠頭は、国内最大規模の木材専門埠頭として知られ、海路によって関東に届く木材製品のほとんどは15号埠頭に集まる。
15号埠頭は、東京木材埠頭(株)(東京都江東区)が倉庫・土場などを運営・管理し、「乙仲」といわれる海運貨物専門業者の望月海運(株)(同)と(株)三協(神奈川県横浜市)が荷下ろしや荷積み、倉庫の整理、手続き業務などを行っている。
15号埠頭は約12万m3の木材製品をストックできる能力を有し、在庫量の増減は市況を読む際の指標にもなっている。遠野社長は、「圧倒的なスケールメリットがあるからこそ15号埠頭の物流コストは低く抑えられており、利用もしやすい。ただ、膨大な量を捌くために、ドライバーの待機時間などが発生してしまうことがある」と口にした。
来年度以降は、こうした待ち時間なども削減して、効率化を図っていくことが求められる。このため、同埠頭では、輸送・保管システムの合理化などを検討しているという。
15号埠頭とともに川崎港も重要視、倉庫を増設し対応力高める
瀬崎林業は、東京港の15号埠頭とともに、川崎港も海路の物流拠点として重要視している。川崎港では、東京国際埠頭(株)(東京都港区)が「乙仲」関連事業から倉庫や土場の運営・管理まで一気通貫で手がけており、常時約4,000m3の木材製品を保管している。トラックの出入り口は2か所あって、一方通行でスムーズに運行できる。ドライバーの待機時間は荷積みのときだけとなっており、遠野社長は、「コンパクトなレイアウトでスピーディーな荷捌きができる」と評価する。
川崎港の周囲には、様々な製品を保管する倉庫が立ち並んでいるが、木材製品を取り扱えるところは年々減ってきている。その理由について、遠野社長は、「木材製品の利回りは低いので、利回りの高い商品に転換するケースが増えているからだ」と説明する。川崎港では、この20年間で木材製品の取扱量が約8分の1に減少した(図参照)。
しかし、こうした趨勢に抗うように、同社は今年(2023年)8月、約3,000m3の木材製品を保管できる屋根付き倉庫を増設した。「水濡れ厳禁」な木材製品や合板のストック量を増やすとともに、同社が扱う他の製品もここに集約して首都圏向けの供給・販売能力を高めていく方針だ。
遠野社長は、「物流の2024年問題を乗り越えるためには、消費地の近くに木材製品を保管できる拠点を整備することが欠かせない」と指摘し、「国産材の産地で品質の確かな木材製品を確保し、内航船を使って一気に消費地まで運び、即納できる体制を敷ければ、変化の激しい木材需要にも対応できる」と明確に語った。
(2023年8月3日、9月7日取材)
(トップ画像=神奈川県の川崎港で行われている荷下ろし作業)
『林政ニュース』編集部
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