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将来は100万m3目指す、取扱量倍増には需要拡大が必須
10年後には「森林信託」の契約面積を2万haに拡大し、伊万里木材市場の年間素材(原木)取扱量を80万m3に増やしたいということだが、現実的に達成可能な数字なのか。
80万m3というのは当面の目標だ。将来的には100万m3の年間素材取扱量を目指したい。
なぜ、そんなにも取扱量の拡大にこだわるのか。
「数は力なり」ではないが、国産材流通の拠点としての機能を高めるためには、やはり「量」が必要だからだ。
昨年(2016年)のわが国のスギ素材生産量は1,184万8,000m3だった。100万m3はこの1割弱(8.4%)に相当する。これだけの「量」を取り扱えるようになれば、弊社の「森林信託」にもっと“説得力”が生じ、参画していただける企業や事業体が増えていくと考えている。
年間100万m3の素材取扱量となると、現在の伊万里木材市場の実績(54万m3)のほぼ倍になる。取扱量が増えれば、それだけの需要、つまり売り先をつくらなければならない。
そのとおりだ。年間100万m3という数字は、弊社が単独で達成できるものではない。「森林信託」を取り巻く全体的なスキームはトップ画像のように構想しており、様々な関連企業・事業体とネットワークを広げながら進めることにしている。
海外を睨み営業所の販売力強化、CLT、2×4にも対応
国内の住宅市場は縮小必至だ。その中で、どうやって売り先を広げていくのか。
弊社は、佐賀、福岡、大分、鹿児島に国産材の流通拠点である営業所を持っている。これらの販売力をもっと高めていきたい。
例えば、南九州営業所(鹿児島県曽於市)では、木質バイオマス発電用材の供給やスギ大径材の海外輸出を行っている。木材輸出は、商社などを介して毎月2,000m3程度を目標に取り組んでいる。こうした新たな販路の開拓を他の営業所でも展開していきたい。
なるほど。売り先を国内だけでなく、海外にも求めていくわけか。ところで、いくら素材の取扱量を増やしても、それを加工した製材品の需要が広がっていかなければ頭打ちになる。この点については、どう考えているか。
例えば、柱・間柱を挽いているものの経営がもう1つ思わしくないという製材工場があれば、3mの直材を安定供給するからもう一度頑張ってみないかと提案している。ハウスメーカーなどが求めているのは、品質や性能のきちんとした製材品だ。そのためには、一定の品質の原木を安定的に確保する必要があり、この面を中心に弊社としてサポートしていきたい。
また今後は、CLT(直交集成板)や2×4(ツーバイフォー)向けの需要が伸びていくだろう。こうしたニーズにマッチした原木の供給力も強化していくつもりだ。
企業の責任を明確化し所有者に安心感、「総合力」活かす
さて、対論の締めくくりに、「森林信託」が林業・木材産業界にとってどのような“意味”を持っているのかを考えたい。「森林信託」と似たようなアイディアは、これまでにもあった。例えば、「団地法人経営」という手法が提案されている(注)。その主な特徴は、①森林の所有と経営の分離、②立木の現物出資、③株式会社システムによる持続的経営、④大面積団地森林経営というもので、森林所有者が立木を現物出資し、法人化(株式会社化)して森林経営をするという考え方だ。だが、肝心の法人(株式会社)の森林経営能力や資産運用能力が未知数であり、これまでのところ目立った実績は出ていない。
この点、伊万里木材市場の「森林信託」は、間伐材や主伐材を伊万里木材市場がすべて買い取り、販売する仕組みになっている。企業としての責任を明確にしていることが、森林所有者に安心感を与えているようにみえる。
(注)『森林経営の新たな展開─団地法人経営の可能性を探る─』(大日本山林会、平成22年)による。
弊社は、原木・製品の市売りを母体とする企業ではあるが、事業範囲は森林整備や素材生産、プレカット加工などへと広がってきており、森林総合商社のようになってきている。この「総合力」が「森林信託」を推進する上でも、エネルギー源になっている。
民間企業や事業体の新規参入に期待、森林の流動化に弾み
これから「森林信託」の実績が上がっていくと、民間の企業や事業体が森林経営にビジネスとして参画してくる動きも活発化していくだろう。これまでは、森林経営の担い手は森林組合というのが一般的だったが、国が「意欲と能力のある経営体」の支援に舵を切る中で、「森林信託」が呼び水となって新規参入する経営体が増えてくるのではないか。
また、「森林信託」は、所有森林の金融商品化を図る手法ととらえることもできる。所有森林を他者に委ねる仕組みが広がると、林地を含めた森林の流動化にも弾みがつくことになり、いわゆる集約化の素地ができていくことになる。
そのようなベースづくりを広げて、何とか山の手入れを進めていきたい。今年(2017年)7月の九州北部豪雨では大量の流木被害が発生し、我々林業・木材産業関係者も大きな衝撃を受けた。森林の防災機能を超えるような異常な豪雨には率直に言って対処しようがないが、やるべきことはやっておいて万一に備えることが基本だろう。森林を現状のまま放置するのではなく、社会インフラとしての機能をもっと高めていくためにも、「森林信託」のような新しいツールがいると考えている。
(トップ画像=「森林信託」を取り巻く全体的なスキーム)
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。