桐材の効能を自社工場で体感、「桐暖」がヒットし事業発展
同社は、桐箪笥製造業者として1979年に創業。ライフスタイルの変化で箪笥の売れ行きが次第に悪くなる中、1991年に桐製家具ブランド「桐子モダン」を立ち上げた。しかし、「新たな方向を模索していたのに発想が家具から離れられなかった」と当時はスタッフの一員だった安藤社長は振り返る。
停滞と試行錯誤が続く中、転機となったのが1994年に開発・発売した桐製の床材「桐暖」。前年の11月に新しい箪笥工場を建設したものの、「本格的な木造にしたものだから建物だけで予算を使い果たしてしまって、床を張るお金がなかった」(安藤社長)。基礎のコンクリートがむき出しという寒々とした状態で、仕方なく箪笥や家具の芯材に使うB級品の桐材を買い入れ、コンクリートの上に直貼りして仕事をしていた。すると年が明けた1月半ばのこと、職人たちの何気ない会話から、「この工場に移ってから腰痛がなくなった」とか「疲れなくなった」というフレーズが出てきた。中には「裸足で仕事をしていても冷たくない」とまで言う職人もいる。
「それで『ちょっと待って、それ、床がいいんじゃないの?』ってなったんです。これがきっかけで、『桐暖』を開発したわけです」と安藤社長は笑みを浮かべながら説明する。
発売したのはその年の5月。家具専門から建材メーカーとしての顔も合わせ持つことでマーケットが広がり、大手新聞の全国版に記事が掲載されたことで商社との取り引きもスタート。各地に出向いて営業する「寅さん稼業」(安藤社長)を続ける中で、多くの出会いや助言、ヒントを得て、床だけでなく、壁や造作、家具・インテリア類と、空間全体を桐材でプロデュースする現在の事業スタイルが育まれていった。
中国産柾目板を安定的に輸入、「桐材の文化を根づかせたい」
現在、同社の商品ラインナップは「桐暖」のほか、桐子モダンブランドの各種家具・インテリア、まな板や米びつなどの日用品・雑貨等々と多岐にわたり、定番品以外の家具・木工品のオーダーも受け付けている。「桐暖」の販売先は、保育園や幼稚園などのほか、一般住宅向けに納品するケースもある。
原料の桐材は、専門商社を通じて中国から柾目の板材を輸入している。2003年から5年間ほどは現地に設立した合弁企業の直営工場で板材や積層材を製造していたが、「必要なものだけを仕入れる方が結果的に一番安い」(安藤社長)と判断した。
国産の桐材も何度か利用を検討したが、価格面、品質面で条件が合わずに断念した。「国産の桐材は手入れ不足で品質が低下している。中国の桐材は枝下高が4mくらいあるものが当たり前にあって品質が安定している。価格もリーズナブル」という評価だ。
同社の商品は、加茂市の本社兼ショールームと東京の日本橋ショールーム「KIRIKO」(日本橋本町)で、実際に見て触って、その場で購入できる。どちらの店舗も、来店者は桐材に魅せられたリピーターが多い。安藤社長は、「以前訪れた赤坂迎賓館には、桐の紋章(日本国政府の紋章)がたくさんあった。桐材を利用する文化を実生活に根づかせていきたい」と話している。
(トップ画像=本社ショールームの2階は素足で「桐暖」の暖かみや肌触りを体験できるようになっている)
『林政ニュース』編集部
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