(後編)内装材の新規需要創出に挑む池見林産工業【遠藤日雄のルポ&対論】

大分県

前編からつづく)ムク(無垢)材の特性を活かした内装材製品のトップメーカーである池見林産工業(株)(大分県大分市)は、1947年に池見材木店として発足し、今年(2025年)で創業78年目に入っている。設立から80周年が視界に入る中で、昨年(2024年)8月には、大手木材商社・ナイス(株)出身の洲崎靖明氏を代表取締役社長に迎え、“第2の創業”とも言える新たな事業展開に踏み出している。人口減などで国内のマーケットが縮小する中で、同社が得意とするムク製品にはどのような“伸びしろ”があるのか。遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長が洲崎社長の構想に迫る。

キーワードは健康と環境、柿渋塗料で仕上げた製品も揃える

池見林産工業の本社事務所の2階は、同社の製品を紹介するショールームになっている。そこには、「桧舞台」(純木桧ムクフローリング)や「ゆかだん桧舞台」(床暖房に対応した純木桧ムクフローリング)、「杉並木」(壁板・腰壁用材)、「桧風呂」などの代表的な製品とともに、カラフルに色づけされた板材などが展示されている。

本社事務所2階のショールーム
遠藤理事長

ムク材には特有の温かみや香りがあり、内装に用いると安堵感の漂う空間ができる。これは他の材料では代替できないものだろう。

洲崎社長

そうしたムク材の特長を消費者にわかりやすく伝えていくことが益々重要になっている。私が製品開発などで重視しているキーワードは、健康と環境だ。
健康と環境に対する消費者の関心は、国内外を問わず高まる一方だ。ムク材は、そうしたニーズに十分応えることができる。

遠藤

ムク材の特性をもっと引き出していくためには何が必要と考えているか。

海外からも引き合いがある桧風呂
洲崎

例えば、製品の仕上げには自然塗料を積極的に用いることが重要だ。弊社では、柿渋塗料で仕上げた製品などもラインナップしている。

遠藤

渋柿の果汁を発酵して得られる柿渋を使っているのか。柿渋は、日本に古来より伝わる自然塗料だが、最近の製品にマッチするのか。

洲崎

ムク材に柿渋塗料を馴染ませる過程で試行錯誤はあったが、25色のカラーバリエーションを揃えて、多様なデザインニーズに応えられるようにしている。柿渋塗料に含まれる柿渋タンニンには、VOC(揮発性有機化合物)の除去や消臭、抗菌など室内空気環境を改善する効果がある。

目標歩留まり率は70%程度、新技術で大径材の利用を広げる

遠藤

製品の製造工程で最も留意していることは何か。

洲崎

原木から製品に仕上げるまでのロスやムダをなくし、歩留まり率を高めることだ。目標としては、70%程度を目指したい。
その一環として、大径材の利用を進めるために幅広のフローリングを開発した。展示会などに出品して、設計士や建築士の方々から率直な意見や感想を聞いているが、概ね好評だ。

遠藤

そういえば、洲崎社長が在籍していたナイスでは、宮崎県の飫肥林業地に生育している大径の飫肥スギの赤身(心材)を活かした製品を開発したと聞いている。

洲崎

その製品は、私も開発に加わってきた「ObiRED(オビレッド)」だ。飫肥スギの赤身部分は、一般的なスギよりも油分(精油成分)が多く、木を腐りにくくするだけでなく、ゴキブリやシロアリ、ダニなどの害虫にも強い。この高い耐久性能を失わないようにして、独自の加工技術で仕上げた製品が「ObiRED」だ。手入れが簡単でウッドデッキなどエクステリア製品としても汎用性が高い。

遠藤

飫肥スギは年輪幅が広くて柔らかいとされているが、赤身部分に着目すれば高耐久材として利用できるわけか。

洲崎

「ObiRED」に、同じくナイスが開発した表層圧密技術「Gywood(ギュッド)」(第742号参照)を組み合わせることで、大径ムク材などの利用範囲は大きく広がる。
このような取り組みは、他の林業地でもできるだろう。実践していくためには、各地域に生育している木の特性をきちんと把握するとともに、木取りや乾燥などの基礎的な技術力を磨くことが重要だ。

適材適所に基づく多産地連携を推進、輸出は戦略の再構築へ

遠藤

全国的には県産材などのブランド化を目指す動きが目立つが、木材流通のプロである洲崎社長はどうみているのか。

洲崎

県ごとにブランド化を競うよりも、各地域に生育している木の個性を引き出していく多産地連携が必要だと考えている。木材利用の基本は適材適所であり、ヒノキの生育に適したところもあれば、品質の良いスギが育つところもある。それらを連携させて、消費者の求める製品をマーケットにどう届けるかが問われている。

遠藤

15年前に池見林産工業を訪ねたとき、中国や韓国にムクの内装材製品を出荷しており、輸出量を増やしていくことを計画していた。当時としては、先駆的な取り組みだったが、現在はどうなっているのか。

洲崎

私が昨年8月に社長に就任したときには、中国、韓国ともに取引はなくなっていた。
中国には、日本から原木が輸出されており、それが現地で内装材製品などに加工されて、韓国などの第3国に再輸出されているという実態がある。こうした中で、日本国内の工場で内装材製品に仕上げて輸出しても、なかなか競争力が出てこない。戦略を組み直す必要があるだろう。

遠藤

日本産木材製品の輸出ターゲットとしては、台湾やベトナム、米国なども有力視されている。

洲崎

それぞれ大きなマーケットになるポテンシャルがあり、コストパフォーマンスを考えながら輸出の可能性を探っていくべきだ。そのためには、国際競争力のある品質の高い木材製品を製造できる体制を整えていかなければならない。

高度な乾燥技術やデザイン力でムク材のニーズを掘り起こす

遠藤

現在の製品製造量や体制はどうなっているのか。

洲崎

年間の製品出荷量は7万~8万坪程度になっている。使用している原板の樹種は、ヒノキが60%、スギが30%、残りはアカマツなどだ。センダンなどの早生広葉樹を利用していくことも検討したい。

遠藤

池見林産工業は、乾燥技術の高さで名を馳せてきた。今も変わっていないのか。

洲崎

弊社の乾燥技術には、長年培ってきたノウハウが集約されており、これからも競争力の源泉になるだろう。
仕入れたヒノキなどの原板は、1.5か月の天然乾燥をした上で、人工乾燥を施し、養生期間を含めて3か月程度をかけて含水率を十分落としてから加工している。原板の備蓄量は6万坪程度あり、容量70m3の中温乾燥機が7基稼働している。

遠藤

最後に改めて聞きたい。ムク材を使った内装材製品の将来性について、どうみているか。

洲崎

ムク材の持っている特性を引き出し、健康と環境に配慮しながらデザインしていけば、ストーリー性のある新製品を開発できる。とくに、住宅等の1次取得者である30歳代やリノベーションを検討している50~60歳代の消費者は潜在需要が大きいので、的確なマーケティングを行ってニーズを掘り起こしていきたい。

(2025年4月24日取材)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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